精神のDNAを引き継ぐ事。温故知新。(再掲)

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精神のDNAを引き継ぐ事。温故知新。 Image by Gioele Fazzeri from Pixabay 10年くらい前の自費出版本『壮心記(緑)』からの抜粋です。 既に90代目前の80代のお二人の対談です。 懲りない面々にも一...

上のは元記事です。

この対談は父上が70代の時なので10以上前のものです。

ゴールデンセブンティーズ大いに語る

アニマル・スピリット旺盛なる 出でよ和製スタートアップ企業

フィンテックの次はアグテック
ファンクショナルメタルの衝撃

熊谷 我々は今まで別々の道を歩んできましたが、日
   本経済の山脈に連なる山の頂上を目指している
   ときに遭遇して、お互い協力していこうという
   ことになりました。
   今後、企業が心がけるべきこととは何かといっ
   たことを、三輪さんと議論していきたいと思っ
   ています。
   我々二人とも七〇代。
   私はゴールデンセブンティーズと自称している
   のですが、私は通産省の役人、そし政治家を経
   て、今は、中小企業が成長していくための手助
   けで、全国を駆けずりまわっています。
   三輪さんは二五年もアメリカの企業と付き合
   い、ゴールデン セブンティーズになってから
   シリコンバレーで半導体の画期的な技術をもつ
   会社を起業されている、すごいですね。

三輪 よろしくお願いいたします。

   まずは熊谷さんから口火を。

熊谷 経済成長の基本は労働力と技術力だと思います
   が、技術の重要性について日本もようやく気が
   ついてきた。
   ロボットなど米国に続け、という動きもその一
   つです。
   しかし、技術革新の分野はまだまだある。
   例えば農業です。
   日本では国が一番お金を出して支援しているの
   にもかかわらず、一番弱い産業で、先行きがな
   いように思われていますが、アメリカでは農業
   がいまとても注目されています。
   少し前までカリフォルニアで大きな変化を起こ
   したITによる金融テクノロジー=フィンテッ
   クを凌ぐ注目分野がアグテック、何のことだか
   判りますか?アグリカルチャーテクノロジーだ
   そうです。
   いま若者たちがいっせいに向かっています。
   単なるアグリカルチャーではなく、テクノロジ
   ーがつく。
   今までは考えられなかった新しいサイバー技術
   など他の技術分野の革新を採り入れて農業を作
   り出す。
   さらに植物由来の材料が、ナノテクノロジーに
   よって強くて硬いナノセルロースを生み出し、
   石油由来や金属由来のものを押しのけようとし
   ています。
   三輪さんは鉄の分野で、ナノメタルの分野に着
   手していると聞いていますが。 

三輪 これは私ではなくて、東北大金属研究所の安彦
   兼次先生が四十何年もかけて研究されているも
   のです。
   鉄の純度を上げていくと、どうなるのかという
   テーマを与えられ、研究に着手したころは、
   「ほんとうにそんなことができるのか」、「で
   きる筈がない」という声が大勢
でした。
   こうした研究を妨害する動きもありました。
   いろいろ苦労しながら純粋度をあげていった
   ら、あるところで、鉄がまったく違った性格の
   ものになったのです。
   金みたいになる。
   割れない、錆びない、ある熱処理をすると硬直
   力が非常に上がる、電磁性が向上する、といっ
   た素晴らしいものになった。
   鉄を純粋度シックスナイン(九九・九九九九)
   まで上げると、そこに変異点ができるという
   事実を発見したのです。
   これを基にして、ファンクシ単純なナノメタル
   ではなくて、ファンクション(機能)を持った
   ものを開発しました。
   これで世界の金属産業・金属製品の「リ・イ
   ンベンション」
をしようと、安彦先生と事業化
   に動き出したところです。

熊谷 それは組織としてはナノレベルに近くなってい
   るのでしょうか。

三輪 純度としては、ナノの分子レベルの結晶がどう
   なっているのか、そういうところまでコントロ
   ールして分析しているのですから、ナノですね。

熊谷 ナノテクノロジーで代表的なものというと、炭
   素です。
   いわゆるナノカーボンのことですが、当初、日
   本がリードしていた。
   しかし行き詰まってしまったのです。
   ナノカーボンの開発は、二〇年以上前に成功し
   たのですが、産業の実用化となると、非常に障
   害がありました。
   ひとつは値段が高い。
   それでもカーボンナノチューブを見つけ出し、
   人工的に作り出すところまではいったのです
   が、一番肝心のところが、スパゲティが絡まる
   ような分散と呼ばれる状態になってしまう。
   それをほどくことができなかった。
   日本では多くの企業が資金を投入して、大学も
   含めて一斉に取り組んでいたのですが、突然立
   ち止まり、退却するという現象が起こってしま
   いました。
   諦めかけていたとき、それまで沈黙していたア
   メリカが突然浮上してきて、実用化の時代にな
   ったのです。

日本には禁じた米国の産業政策
新資源大国の夢と現実の狭間

三輪 なぜ、突然アメリカが浮上してきたのでしょう。

熊谷 産官一体の力です。
   長い日米経済紛争を経験した者として言わせて
   頂きますと、日本はアメリカから相当バッシン
   グを受けてきました。
   彼らは産業政策などいらない、民間が自由にや
   ればいいんだと言い続けていた。
   しかも日本はバブル崩壊以降、行政と事業者が
   一体となって技術革新に突き進むということが
   なくなってしまったのです。
   ところがアメリカは日本に言っていたことと
  は、真逆を行っていた
のです。
   カーボンナノチューブも行政と事業者一体によ
   る開発成果です。
   たとえば昨年の八月にもオバマイニシアチブと
   称して繊維産業の復興を目指す大胆なプロジェ
   クトが立ち上がりました。
   呼応するかのように錚々たるハイテク企業や、
   グーグルとかアップル、アマゾンといったたく
   さんの新興企業が呼応し 五〇〇億円もの金を
   集めて、スタートさせています。
   「なぜ、いまさら衰退した繊維なのか」といっ
   た質問に、「従来の繊維産業を復 興させるの
   ではない、高機能をもった、今までとは違う繊
   維産業をアメリカに根づかせるんだ」と担当者
   は答えています。
   実はこのオバマプロジェクトの絵を描いたのは
   国防総省です。

   その証拠にオバマプロジェクトが発表される
   や、すぐにカリフォルニアに飛んで、民間企業
   に参加せよと呼びかけたのはカーター国防長官
   で、プロジェクトの始動は軍服だった。
   まさにアメリカが透けて見えるようなケースで
   す。
   軍のために使うのですから、国も金に糸目はつ
   けません。

   しかし、日本ではそうはいかないわけです。
   何に使われ、コストをどれだけ安くできるかと
   いったことがクリアされて初めて開発が始ま
   り、実用化産業化に 至るまで時間がかかりす
   ぎる。
   では日本にチャンスがないのかというと、そん
   なことはありません。

   たとえば ナノセルロースは日本でも十分に産
   業化できます。
   スウェーデンの学者の研究によれば、実験レベ
   ルでは鉄の五倍以上の機能を発揮できるとのこ
   とです。
   ただ、弱点もある。
   植物由来であるがゆえに、微生物のターゲット
   になり、クラック(亀裂)が起きたりする。
   それをどう克服するか、これが課題です。
   しかし、日本人の手で、これは実現できるとい
   う確信が私にはあります。
   日本には木材が豊富です。
   さらにナノセルロースと他のナノを融合するこ
   とによって、資源化を進めていく。
   要するに日本が新資源大国になっていくという
   ことです。

三輪 そうなればいいのですが、新資源大国にはなれ
   ない可能性もある。

   というのも、正直言って、戦後の日本のミラク
   ルな発展は、今から考えると、アメリカが冷戦
   の中で、日本の経済力を増強させようとして、
   日本に技術を教えアメリカの製品を模倣させ、
   安くアメリカに輸出させた。
   もちろん、それなりの工夫もしたことにより、
   日本産業は飛躍的な発展を遂げました。
   繊維や、半導体では叩かれましたが、だから
   といってアメリカに代わって日本が覇権国には
   なれなかった。
   何が欠けていたのか、それは日本独自の新しい
   価値を生み出すことができなかったから
です。
   新しい価値を生み出すためには、ディスラプテ
   ィブ・イノベーションをしていかなければいけ
   ません。
   ディスラプティブとは、辞書を引くと「破壊的
   な」という意味もあるのですが、ここでは「枝
   分かれ」「分岐する」という意味だと思ってく
   ださい。

   すでにある商品、技術の場から分岐して、まっ
   たく新しい市場を創造するイノベーションです。

   というのも日本人は砂漠の中で、無から有を生
   み出すリ・インベンションは苦手です。
   今後、日本は既にある技術・機能をベースにし
   ながらも、これまでとは 全く異なる視点から
   新たな商品を生み出し、新しい市場を創造すべ
   きです。
   既存の技術に片足を置いて新しい市場を創れ
   ば、価格競争に巻き込まれることはありません。
   ディスラプティブ・イノベーションなら日本人
   でも十分に取り組み可能で、開発に自信が持て
   る。
   これまでのようにいかに安く作るということか
   らは離れ、新しい商品で新たなマーケットを創
   るという気概を持たないと、せっかくナノセル
   ロースができたとしても、新資源大国になるこ
   とはできないということです。

復活する元製造業主力地域
ラストベルトで何が起きている

熊谷 お言葉ですが、ナノテクノロジーは、ナノセル
   ロースのみならず、CNT、グラーフェンな
   ど、様々なナノ物質が開発され、さらにこれら
   ナノ物質の融合へと進みつつあります。
   その意味では三輪さんの仰るまさにディスラプ
   ティブ・イノベーションが進みつつあります。
   ところで、先ほど三輪さんが述べられた、日本
   の奇跡的な飛躍も、アメリカ主導だったという
   お話を聞いて、思い起こすことがあります。
   エマージングカントリー=新興国という言葉が
   生まれたのは今から三〇年ほど前ですが、それ
   までは発展途上国と呼ばれていました。
   新興国という概念には、先進国を押しまくると
   いう意味合いがこめられていたのです。
   それまでは、先進国から発展途上国にものを送
   ることで、経済開発を手伝うというベクトルだ
   ったのに、エマージングカントリーに名前が代
   わってから、むしろ後進国から先進国にものが
   流れるという大きな変化が起きたのです。
   武器は安い賃金でした
   日本同様、アメリカでも新興国の安い労賃に押
   しまくられて、海外に出ていくか、工場を閉じ
   るかを迫られた。
   ところが製造業が中心で衰退しているはずの五
   大湖周辺や、ニューヨークの周辺、ボストン周
   辺、サウスカロライナの周辺などに、ラストベ
   ルトと呼ばれる脱工業化が進むエリアが出てき
   たのです。

   それらのエリアを、最近、空から見て回った人
   がいるのですが、元気そうに見えた。
   なぜだろうと飛行機から降りて、今度は車で見
   てまわったそうです。
   すると分かったことは、従来の産業をベースに
   しながらも、新しい技術と新しい価値を生み出
   し、新しい製品を作っていたということでした。
   まさに三輪さんが言うところのディスラプティ
   ブ・イノベーションを実践していたということ
   です。
   大学や研究所で開発したものを事業化していく。
   新しい事業を作り出す。
   要するにスタートアップ企業が次々に誕生した
   のです。
   スタートアップ企業とは、既存の企業の商品や
   サービスとは異なる差別化された新しいものを
   提供できる企業の事で、当然イノベーションを
   していなくてはいけません。
   ラストベルトは最初ニューヨークで、次にボス
   トンに誕生した。
   マサチューセッツ工科大学があるからです。
   もちろんシリコンバレーにも多くのスタートア
   ップ企業が存在します。
   ラストベルトと言われるところは、大学もあ
   る。
   ブレイン・パワーを共有することによって、そ
   こでは産学連携という仕組ができ、スタートア
   ップ企業の誕生につながったのです。
   大事なことは、起業は若者の仕事だと思い込み
   がちですが、米国の場合は三〇代、四〇代の既
   存企業の中から起業家が続々と出てきているこ
   とです。

   それともうひとつ、衰退していたエリアが復
   興できたのは、衰退した分、賃金が安くなり、
   土地代も下がったので、新しい企業が進出しや
   すくなっていたからです。

コンサル料を理解できない日本
ようやく動き出した産学連携

三輪 私はかつてケイデンスという半導体の回路設計
   をおこなうソフト会社にいたころ、世界のいろ
   いろな地域に設計センターを作り上げるコンサ
   ルタントをしながら、同時に街づくりもしてい
   くという仕事をしていたことがあります。
   スコットランドのエジンバラの近くに、アルバ
   という古い街があります。
   一面菜の花畑が広がるところでしたが、周囲に
   大学が七つもあり、それらとネットワークをつ
   くり、「アルバ設計センター」をつくりました。
   多くの企業を世界中か誘致し、菜の花畑を頭脳
   労働のメッカにしました。
   同時に半導体のIP(電子回路機能ブロック)
   の集積拠点として、そのIPの売買も促進しま
   した。
   今も稼働しています。
   産学連携の走りだったかもしれません。
   同じようなセンターを、アメリカのラストベル
   トのピッツバーグやダラスにも作りました。
   実をいうと、日本にもと思い、九〇年代後半の
   ことでしたが、当時の麻生渡福岡県知事に提
   案したことがあります。
   アルバの例を持ち出して説明したところ、すぐ
   に賛成してくれました。

熊谷 麻生知事のことはよく覚えています。
   通産省時代の先輩で、半導体産業を立ち上げよ
   うというときの課長補佐でした。
   もともと麻生さんの関心の高い分野であり、積
   極的になるのは当然でしょうね。

三輪 九州エリアには半導体製造工場が多く立地して
   いて、シリコンアイランドなどと称されていま
   した。そこで、ハードとは違う、頭脳労働を集
   約した半導体設計センターを福岡につくりま
   しょうという提案でした。
   ところが、二回目にお会いしたとき麻生知事が
   「ところでコンサルタント料はいかほどになり
   ますか」と聞いてきたので「大変お安くしてお
   きます。六億円で構いません」と返事をした
   ら、知事はびっくりした顔つきになり、「い
   や、ちょっと、それは・・・」ということにな
   ってしまったのです。
   箱ものの額だったらそれぐらい出せるけれど、
   コンサルタント料ではとうてい無理だというこ
   とでした。

熊谷 日本人はそこが分かっていないのです。
   私は情報処理振興課にいたからよく分かるので
   すが、海のものとも山のものとも判らないコン
   サルタントに、なんでそんなに金を出さなくて
   はいけないのかと思われたのでしょう。
   私が情報処理振興課に在籍していた四〇年前
   は、情報処理振興事業協会を立ち上げて、債務
   保証をするということで、どこまで能力があれ
   ば、企業は採用するのか、それをはっきりさせ
   るために、資格制度を設けて、試験をするよう
   にして、お金を調達したものです。

三輪 ただ、ちょうどその頃、福岡県も少しリストラ
   をしていた時期で、それだけの金は出せないと
   いうことでした。
   アルバのコンサルタント料は二〇億円でしたか
   ら、それに比べれば、かなり格安の提案だった
   のですが。
   そこで私の知識の範囲内で、無料でセンターつ
   くりをお手伝いしましょうということにしまし
   た。
   飛行機代も自腹でそれこそ手弁当で立ち上げに
   協力しました。
   市の職員たちにも熱心に動いていただき、立ち
   上げに成功しました。
   それが福岡の百道浜に発足した「シリコンシー
   ベルト福岡」です。今でも一二〇社ぐらい集ま
   っています。

熊谷 日本でもやっと東大などで、自分たちで研究開
   発したものを事業化するために、産業界と組ん
   で会社を立ち上げるという事例も出てきました。
   こういった企業はすでに二〇〇社を超え、一兆
   数千億円の売り上げになっていると聞いていま
   す。
   産学連携が普通のことになってきたということ
   です。
   東京の周辺でも、新しい企業が出てきている。
   

三輪 福岡には九州大学や九州工業大学があります。 
   ブレインパワーを共有するにはもってこいの場
   所です。

アメリカなにするものぞ

必要なアニマル・スピリット

熊谷 アメリカなにものぞ、とする素地が出てきたと
   いうことですね。

三輪 あとは熊谷さんが言われるところの、やってみ
   せて、言って聞かせ、やらせてみせ、ほめてや
   る、これを実行することです。
   いったん成功すると、自信につながるので、
   成功事例を増やしていくことです。

熊谷 産学連携で新しい時代を作り上げていくために
   は、そこで活動する人間が肝心です。
   私はケインズが唱えたアニマル・スピリットを
   持たなければいけないと思っています。

   将来に対する期待を持ち続け、合理的な結果に
   基づく予想を立てて、それで終わりではなく、
   思いもよらないことが起きうる。
   その時どうするのか、向き合えるかなのです。
   アニマル・スピリットを持っていたら乗り越え
   られる。

   「血気」「野心的意欲」などと訳されています
   が、日本の起業家にもっとも求められている精  
   神なのです。
   日本が得意とする技術分野は次々に開かれつつ
   あります。
   例えば
   1カーボン・ファイバーを更に発展させる複合
    技術
   2繊維型センサーによるウェアラブルデバイス
   3エネルギー産業として最も重要となるバッテ
    リー
   4単層CNTを半導体と金属体に分離する技術  
   など今までの技術では考えられもしなかった技
   術開発が進んでいます。
   いま求められていることは、こうした期待分野
   で、アニマル・スピリットをと引き出していく
   かでしょう。
   砂漠に木は生えないわけで、一定の環境づくり
   が必要になってきます。
   うまくマーケットに導くためにはどうすれば良
   いのか。
   最初のリスクマネーをできるだけ回避するため
   にはどうすれば良いのか。
   アルバや福岡の事例のように、空間、場所も必
   要になってきます。
   いかに、新しく起業していこうとしている人た
   ちに こうしたノウハウや場を提供していくか。
   こうした循環をアメリカではエコシステムと言
   っているそうです。
   まさに有機的な結びつきを作る仕組みを確立し
   ていかなくてはいけません。

三輪 おっしゃる通りです。
   アニマル・スピリットを発揮し、ディスラプテ
   ィブ・イノベーションでエコシステムを構築で
   きるようになれば、日本のこれからの産業も頂
   上が見えて来るのではないでしょうか。

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